今のアダルトゲームは、かなり豪華です。
グラフィックはフルカラーで、キャラクターには声がつき、場面によってはアニメーションまで流れる。作品によっては、恋愛ドラマとRPGとアニメを一本にまとめたようなボリュームになっています。
でも、パソコン向けアダルトゲームが広がり始めた頃は、そんな派手なものではありませんでした。
画面に表示されるのは、限られた色数で描かれた女性キャラクター。文章を読み、コマンドを選び、フロッピーディスクを入れ替えながら進めて、ようやく一枚のCGが表示される。
今なら「それだけ?」となりそうですが、当時はその一枚でちゃんと満足できました。
その時代の中心にあったのが、NECのPC-9801シリーズです。
もともとは、かなり真面目な仕事用パソコン
初代PC-9801が発売されたのは1982年です。
日本語処理に強い16ビットパソコンとして、会社や事務所で使うことを意識して作られました。本体価格も高く、学生が小遣いで気軽に買えるような機械ではありません。
文書作成や表計算、業務用ソフトを動かすための、いかにも真面目なパソコンです。
ところが、国内でPC-9801シリーズが普及していくと、当然ながらゲームも増えていきました。RPG、シミュレーション、アドベンチャー、そして美少女ゲーム。
1980年代まではPC-8801シリーズも人気でしたが、1990年代に入る頃には、国内パソコンゲームの中心がPC-9801へ移っていきます。
1991年には、PC-9801向けゲームが年間300本以上発売され、そのうち3分の1以上が美少女ゲームだったともいわれています。
昼は会社で仕事。
夜は家でエロゲー。
同じ機械なのに、使われ方の振れ幅がかなり大きい。PC-9801は、日本のパソコン文化を支えながら、その裏でアダルトゲーム市場まで育てていたわけです。
16色しか使えないのに、女の子は妙にきれいだった
PC-9801時代を象徴するのが、640×400ドット、同時表示16色のグラフィックです。
使える色は4096色の中から選べますが、一つの画面に同時表示できるのは基本的に16色。背景、肌、髪、服、目、影まで、その中で全部やりくりしなければなりません。
今の感覚だと、かなり無茶な条件です。
肌を塗ったら、髪に使う色が足りない。背景をきれいにしたら、服の影が表現できない。そこで絵を描く側は、異なる色の点を交互に置いて中間色っぽく見せたり、髪へ細かな線を入れてツヤを出したりしていました。
いわゆるディザリングという技法ですが、当時のCGでは、この工夫がかなり重要でした。
現在の液晶画面で拡大すると、ドットの粗さはよく分かります。でも、ブラウン管モニターでは輪郭や色が少しにじみ、それが逆にいい感じになじんで見えたんです。
16色なのに、妙に肌が柔らかそうに見える。
髪もそれなりにツヤがある。
何より、パソコンの画面いっぱいに女性キャラクターが表示されること自体が新鮮でした。
一枚のCGが出た瞬間に、「ここまで進めた甲斐があった」と思えた時代です。
フロッピーを入れ替えるのも、ゲームの一部だった
PC-9801時代のゲームは、主にフロッピーディスクで販売されていました。
作品の規模が大きくなれば、ディスクの枚数も増えます。ゲーム中に「ディスクCを入れてください」と表示されたら、現在のディスクを抜き、箱の中から指定されたものを探して差し込む。
これを何度も繰り返します。
1992年にエルフから発売された『同級生』のPC-9801版には、AからIまで9枚のフロッピーディスクが入っていました。
今ならゲーム一本が数秒で起動することもありますが、当時は画像を表示するだけでもフロッピーが回り、読み込みが終わるまで少し待たされます。
ただ、その時間にイライラするというより、
「次は何が出るんだろう」
と待っていた人も多かったはずです。
読み込みの遅さまで、ちょっとした焦らしになっていたんですよね。
エロを見るために、普通にゲームを攻略する
初期のパソコン向けアダルトゲームには、正しいコマンドを順番に選び、女性との場面を目指すだけの単純な作品も多くありました。
ところがPC-9801が広がるにつれ、ゲーム部分までしっかり作られた作品が増えていきます。
1989年に登場した『Rance-光をもとめて-』は、コマンド選択式のアドベンチャーに戦闘や冒険を組み合わせた作品です。ここから始まったランスシリーズは、同じ世界や登場人物を引き継ぎながら長く続きました。
同じ1989年に登場したエルフの『ドラゴンナイト』も、ダンジョンRPGとアダルト要素を組み合わせた作品として人気を集めます。
最初は女性キャラクターとの場面を見るつもりで始めたのに、途中から普通に戦闘や探索へ夢中になる。
装備を整える。
レベルを上げる。
次の階段を探す。
気づけば、エロより先にRPGを真面目に攻略している。
この頃になると、アダルトゲームは単なるお色気画像集ではなく、「ちゃんと一本のゲームとして遊べるもの」へ変わり始めていました。
『同級生』で、エロまでの時間が恋愛になった
1992年に発売された『同級生』は、PC-9801時代を代表するアダルトゲームの一つです。
それまでの作品では、正しいコマンドや選択肢を見つければ女性との場面へ進める、という作りが多くありました。
『同級生』では、夏休みの町を歩き、時間と場所を考えながら女性キャラクターと出会います。一度会えば終わりではなく、何度も顔を合わせ、会話を重ねることで少しずつ関係が変化していきます。
気になる女性がどこにいるのか探す。
時間を合わせて会いに行く。
昨日とは違う会話をする。
エロい一枚絵だけでなく、そこへたどり着くまでの恋愛そのものがゲームになりました。
最後のCGを見る頃には、その絵よりもキャラクターの性格や物語の方が気になっていた人も多かったはずです。
一枚のCGで満足できたのは、そこまでが長かったから
PC-9801時代のアダルトゲームには、長い動画も派手なアニメーションもありません。
文章を読み、コマンドを選び、ゲームを進めた先で、一枚のイベントCGが表示される。
女性キャラクターが下着姿になる。
服が少し乱れる。
いつもとは違う表情を見せる。
今の大人向けコンテンツに慣れていると、かなり控えめに見えるでしょう。
でも当時は、インターネットで画像や動画を好きなだけ検索できる時代ではありません。パソコンの画面で大人向けの絵を見られること自体が、まだ珍しかったんです。
しかも、その絵は最初から表示されません。
文章を読み、ゲームを進め、時には失敗し、ディスクを何度も交換して、ようやく出てくる。
だから、一枚の重みが違いました。
当時は16色で充分だった。
というより、色も動きも少なかったからこそ、プレイヤーが頭の中で勝手に続きを足せたのかもしれません。
声がないなら、声を想像する。
動かないなら、その前後を想像する。
PC-9801の画面には、現在のフルカラー作品とは違う、想像で補う楽しさがありました。
そして次の時代になると、この「一枚を見るために頑張る」という仕組みそのものが、野球拳やパズルなど、もっと単純なパソコンゲームにも広がっていきます。
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