1990年代までのパソコン向けアダルトゲームには、時代ごとに分かりやすい流れがありました。
最初は、麻雀やジャンケンに勝てば女性キャラクターの絵が見られる“ご褒美型ゲーム”。そこから、女性をナンパして会話を進めるアドベンチャー、ダンジョンを攻略するRPG、恋愛そのものを楽しむシミュレーションへと広がっていきます。
1990年代後半になると、ビジュアルノベルが人気を集めました。エロい場面だけでなく、物語やキャラクターを目的に遊ぶ人も増え、作品によっては「これ、もう普通に長編小説では?」というくらい文章量が増えていきます。
ところが2000年代に入ると、エロゲー全体が一つの方向へ進むことはなくなりました。
長い物語を読む作品もある。
成人向け場面を次々に見せる作品もある。
何十時間も遊べるRPGもあれば、3Dキャラクターを自由に動かすゲームもある。さらに、DVDプレーヤーで遊ぶ作品や、ネット上で毎日少しずつ進めるゲームまで登場しました。
インターネットとダウンロード販売が広がると、大手メーカーだけでなく、個人や小さな同人サークルも作品を売れるようになります。
エロゲーは一つのジャンルではなく、遊ぶ人の好みに合わせて、細かく枝分かれしていったのです。
長い物語を読むビジュアルノベルは、さらに大作化した
2000年代に入っても、1990年代後半から続くビジュアルノベルの人気は衰えませんでした。
むしろ文章、音楽、グラフィックを組み合わせた物語は、さらに長く、複雑になっていきます。
2000年にKeyから発売された『AIR』は、夏の田舎町を舞台に、登場人物たちの過去や家族の関係を描いた作品です。
2004年には、TYPE-MOONから『Fate/stay night』が登場します。魔術師と英霊たちが戦う“聖杯戦争”を描いた伝奇作品で、後にアニメや家庭用ゲームなどへ大きく展開していきました。
この時代の人気作には、プレイ時間が数十時間になるものも珍しくありません。
ゲームを始めて、すぐに成人向け場面が出てくるわけではない。まず登場人物を知り、世界の仕組みを理解し、何時間も文章を読まなければならない。
最初は女性キャラクターに興味を持って買ったのに、気づけば事件の真相や物語の結末の方が気になっている。
「エロはまだか」と始めたはずなのに、途中から設定資料を読み、伏線を考え、登場人物の過去に頭を抱えている。
この頃になると、成人向け場面を抜いても作品として成立しそうなほど、物語に力を入れたゲームが増えていました。
長い話はいいから、エロを見せてくれという「抜きゲー」
物語重視の作品が人気を集めた一方で、すべてのプレイヤーが何十時間もの文章を読みたいわけではありません。
重い設定も、長い共通ルートもいらない。
魅力的な女性キャラクターと、成人向け場面をたくさん見たい。
そうした需要に応える作品は、一般に「抜きゲー」と呼ばれるようになりました。
とはいえ、ただ画像を順番に表示するだけではありません。
学園、旅館、病院、職場、家庭教師などの舞台を用意し、複数の女性キャラクターを登場させる。年上、年下、同級生、先生、上司など、関係性も細かく分けられていきます。
物語中心のゲームでは、長い共通ルートを読んだ後に、ようやく一人のヒロインとの話へ入ります。
一方、抜きゲーでは成人向け場面までの時間を短くし、場面数や内容の幅を増やすことが重視されました。
エロゲーを買ったのだから、エロを早く見たい。
かなり正直な話ですが、需要としては当然あります。
2000年代以降は、「物語をじっくり読みたい人」と「成人向け場面を中心に楽しみたい人」に向けて、作品がはっきり作り分けられるようになったのです。
RPGやシミュレーションは、普通のゲーム並みに本格化した
1980年代末から続くアダルトRPGの流れも、2000年代に入ってさらに大きくなりました。
パソコンの性能が上がり、扱えるデータ量も増えたことで、マップ、戦闘、仲間、装備、育成、国づくりなど、一般のRPGやシミュレーションゲームに近い仕組みを持つ作品が増えていきます。
代表的なシリーズの一つが、アリスソフトの『ランス』です。
2006年に発売された『戦国ランス』では、日本の戦国時代を思わせる地域を舞台に、国を攻め取り、武将を集め、部隊を編成して戦います。
どの国から攻めるのか。
誰を仲間にするのか。
どの武将を、どの部隊へ入れるのか。
成人向け場面を見るだけなら、そこまで真剣に考える必要はなさそうですが、ゲームとして勝つには普通に頭を使います。
この系統の作品では、成人向け場面を全部見る前に、攻略だけで何十時間もかかることがあります。一度クリアしても、別の仲間や進行ルートを試すために、また最初から遊ぶ人もいました。
エロゲーとして買ったはずなのに、途中から戦闘効率や部隊編成を真顔で考えている。
1980年代のアダルトRPGにあった妙なハマり方が、さらに大規模になって戻ってきたわけです。
女の子が一枚絵から、動かせる3Dキャラクターになった
2Dイラストを使った作品が主流だった中で、3Dキャラクターを動かすアダルトゲームも独自の分野を作っていきました。
3Dゲームでは、決められた一枚絵を見るだけではありません。
髪型や服装を変える。
視点を動かす。
場所や動きを選ぶ。
作品によっては、顔や体型まで調整する。
用意された絵を見るゲームから、自分でキャラクターや場面を作るゲームへ変わっていきました。
初期の3Dキャラクターは、今見るとかなり硬い動きです。髪や服は板のようで、表情もそれほど細かくありません。
それでも、自分の操作に合わせて女性キャラクターが動くことには、一枚絵とは違う新鮮さがありました。
パソコンのグラフィック性能が上がると、肌や髪、表情、体の動きも少しずつ滑らかになります。
さらに、服装、体型、性格、声などを細かく設定できる作品も増えました。
ビジュアルノベルが、作者の用意した物語を読むゲームなら、3D作品は自分でキャラクターを作り、好きな場面を組み立てるゲームです。
1990年代には「エロゲーは読むもの」へ進んでいましたが、3Dゲームでは文章をほとんど読まずに遊ぶ形が、別の方向から戻ってきたのです。
パソコンなしでも遊べたDVD-PG
2000年代には、DVDプレーヤーを使って遊ぶ「DVD-PG」という商品も登場しました。
仕組みはかなり単純です。
映像や画像を見ながら物語を進め、途中で選択肢が出たら、DVDプレーヤーのリモコンで答えを選ぶ。
特別なパソコンもゲーム機も必要ありません。家庭にDVDプレーヤーさえあれば遊べました。
もちろん、DVDのリモコンで操作するので、複雑なRPGやアクションゲームには向いていません。
その代わり、文章と画像を順番に見せ、途中で物語を分岐させるビジュアルノベルやアドベンチャーゲームとは相性がよかったんです。
パソコン版の人気作を移した商品もあれば、最初からDVD向けに作られた作品もありました。
当時はDVDプレーヤーが家庭へ広がっていた時期です。
パソコンを持っていない。
インストールのやり方もよく分からない。
でもDVDなら、ディスクを入れて再生すればいい。
エロゲーを遊ぶ入口を、無理やりリビングのテレビまで広げたような商品でした。
ただし、テレビで遊ぶ以上、家族が突然部屋へ入ってくる危険は高めです。
同人サークルでもゲームを売れるようになった
インターネットとダウンロード販売の広がりは、ゲームを作る側にも大きな変化を与えました。
それまでゲームを売るには、会社を作り、パッケージを生産し、流通を通して店へ置いてもらう必要があります。
制作費もかかる。
箱や説明書も作らなければならない。
店に置いてもらえなければ、そもそも客の目に入らない。
かなり大変です。
しかしダウンロード販売なら、完成したデータを販売サイトへ登録することで、個人や小さなサークルでも全国の利用者へ作品を届けられます。
ゲーム制作ソフトの普及も大きな助けになりました。
『RPGツクール2000』のようなソフトを使えば、プログラムを一から全部書かなくても、マップ、戦闘、イベント、会話を組み合わせてRPGを作れます。
その結果、同人アダルトゲームではRPG、アクション、シミュレーション、探索、パズルなど、いろいろな作品が作られるようになりました。
大手メーカーほどグラフィックや音声へお金をかけられなくても、個人の好みを強く出せる。
商業作品では人数が少なすぎて企画が通らないような題材でも、同じ好みを持つ人へ直接届けられる。
万人受けを狙わなくていいので、
「誰が買うんだ、これ」
という作品でも、その“誰か”が全国に数百人いれば成立することがあります。
同人ゲームの広がりによって、エロゲーの内容はさらに細かく分かれ、作り手の数も一気に増えていきました。
ブラウザゲームは、毎日少しずつ遊ぶものになった
インターネット回線が速くなると、ゲームをパソコンへインストールせず、ブラウザ上で遊ぶ作品も増えていきます。
ブラウザゲームは、一度買って最後まで遊ぶパッケージ型とは仕組みが違います。
サービスが続く間、新しいキャラクターや物語、期間限定イベントが追加される。基本プレイ無料で始められ、必要に応じてアイテムやキャラクターへ課金する形式も広がりました。
このタイプのゲームでは、一本の物語を数日かけてクリアして終わりではありません。
毎日少しずつ遊ぶ。
期間限定イベントへ参加する。
好きなキャラクターを集める。
育成を続ける。
アダルトゲームも、買い切りのパッケージ商品から、長く運営されるサービスへ変わっていきました。
昔なら、店で箱を買って自宅へ持ち帰り、一人で最後まで遊ぶ。
ブラウザゲームでは、ネットへつなぎ、新しく追加される内容を何か月、何年と追いかける。
作品を“クリアする”というより、作品の中へ通い続ける遊び方になったのです。
大きな箱を買う時代から、家でダウンロードする時代へ
かつてアダルトゲームを買うには、専門店や家電量販店のパソコンゲーム売り場へ行く必要がありました。
棚には、大きな箱がずらっと並んでいる。
裏面を見て内容を確認する。
意を決して箱をレジへ持っていく。
店員はたぶん何とも思っていないのに、買う側だけが妙に緊張する。
家へ帰ったら、CD-ROMやDVD-ROMからインストールします。
箱の中には説明書、アンケートはがき、設定資料、特典などが入っていました。
パッケージを棚へ並べる楽しみはあります。
一方で、とにかく場所を取る。
家族に見つかる。
引っ越しのときに困る。
古い作品は、店頭から消えると探すのも大変です。
ダウンロード販売なら、自宅から作品を検索し、購入後すぐにデータを入手できます。
箱をレジへ持っていかなくていい。
売り切れも少ない。
古い作品も再販売しやすい。
パッケージを買う恥ずかしさと、棚の場所問題をまとめて解決してしまいました。
FANZAやDLsiteのような販売サービスが広がると、商業作品だけでなく、同人ゲーム、マンガ、音声作品なども同じ場所で探せるようになります。
店の棚に並んでいる中から選ぶのではなく、検索欄へ自分の好みを入れて探す時代になったのです。
便利になった一方で、検索履歴だけは人に見せられません。
エロゲーは、一つの形ではなくなった
脱衣麻雀や野球拳の時代は、「ゲームに勝つと女性が脱ぐ」という単純な仕組みだけで作品が成立していました。
その後、女性を口説くアドベンチャーが生まれ、RPGでは敵と戦い、恋愛ゲームでは相手との関係を育て、ビジュアルノベルでは長い物語を読むようになります。
2000年代以降は、そこからさらに細かく分かれました。
物語を読みたい人には、長編ビジュアルノベルがある。
成人向け場面を多く見たい人には、抜きゲーがある。
普通にゲームとして遊びたい人には、RPGやシミュレーションがある。
キャラクターを自由に作って動かしたい人には、3Dゲームがある。
パソコンを使わずに遊びたい人向けにはDVD-PGが作られ、ネット上ではブラウザゲームが長く運営されるようになりました。
さらに個人や小さなサークルも、ダウンロード販売を使って、かなり尖ったゲームを発表できます。
エロゲーの歴史は、新しい形式が古い形式を完全に消していった歴史ではありません。
物語を読む作品が増えても、ゲーム性を重視する作品は残る。
3Dが進化しても、2Dの一枚絵を好む人はいる。
大手メーカーの大作がある一方で、一人や数人で作った小さな同人ゲームも売れている。
全員が同じ作品を遊ぶ世界ではなく、それぞれが自分の好みに合った作品を探す世界になりました。
昔は、麻雀に勝てば女性が脱ぐ。それだけでもよかった。
今は物語、ゲーム性、絵柄、声、設定、遊び方まで、かなり細かく選べます。
勝てば脱ぐという単純なパソコンゲームから始まったエロゲーは、長い年月をかけて、作る側も遊ぶ側も好きな方向へ進める、かなり広い世界になったのです。
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